この世で最も怖いもの

大地一人

 世の中には怖いものはたくさんございます。昔は、地震、雷、火事、親父・・・と言いました。親父の権威は小さくなりましたが、地震と火事はとても怖いですね。
 でも幸い、こういうものはあまり発生しませんし、また起こってもらっては困ります。
 私がいつも思うのは、人間にとって一番怖いもののひとつは、『自分の過去の成功体験』ではないかと思っております。
 確かに成功体験は、自分に自信を植え付けます。しかし他方、とても怖いものでもあるのです。
 有名作家がどんどん自殺しているのは、「作家としての過去の成功」から逃れられないからでしょう。うつ病患者も、過去の元気だった自分と比較すると、今の自分がいかにも惨めに思えます。で、自殺などをなさいます。わかりやすい例を言えば、あの松坂大輔投手なども、完璧な勝利を収めた次の登板では、序盤に大量失点・・・というケースがしばしばございます。競馬でも、万馬券を当てた後に、財産を失うことはよくあります。加藤智大容疑者(秋葉原事件)が、ああいう事件を起こしたのは、学生時代の「秀才」という自分から見たら、現状の自分が極めて不満であり、その結果他人を恨んだからでしょう。タバコを止められない人も、過去にタバコを吸いながらやっていた仕事がうまくいっていたからでしょう。お酒だってそうです。若いころは、いくら飲んでも平気だった・・・そのつもりで飲んだら、老いた体は耐え切れず、その結果、肝硬変になってしまいます。
 徒然草にも『木登りの名人』(第109段)の話が載っております。木登りの名人は、若い者が木に登るのを見て、危ないところでは何も言いません。でも、皆がもう大丈夫だろうと思うところで、「気をつけて下りなさい」とアドバイスします。こういう話は、松坂投手の例を見れば、すぐに納得がいきます。
 私たちは成功した後にこそ、「もう一度成功するためには、どうしたらいいんだろうか」を、冷静に考えるべきです。今まで以上に真剣に考えるべきです。そのとき、「この前成功した通りにやればいい」場合もあるでしょう。しかし、ほとんどの場合は、「この前成功した通りにやってはいけない」のです。ゼロから考え直さないといけないのです。
 ところでフラカン理論とは、実はそういうことを述べた理論なのでございます。