携帯電話 その電磁波は安全か
著者  ジョージ・カーロ&マーティン・シュラム
訳者  高月園子  発行者 谷山尚義  発行所 株式会社集英社

研究が進むにつれ、一つ、また一つと危険信号が灯る
心臓のペースメーカーとの電磁干渉
携帯電磁波が子供の脳と目を深く貫通するというデータ
脳に有害物質が到達するのを防ぐ血液脳関門が損なわれるという発見
最大の危険信号は携帯の電磁波が血球に小核を発生させることだ
小核の発生は遺伝子の損傷を意味し、癌の診断にも使われる
危機を感じた業界は研究費をストップし
マスコミや科学界でのカーロ博士の信用を傷つける手段に出た
だが彼は屈しなかった・・・・

紹介節
プロローグ ネズミの脳細胞のDNAに損傷が 入門 DNAの破損-遺伝子損傷 血液脳関門を損傷 携帯が実際に遺伝子損傷を起こす決定的な証拠 携帯電話が脳腫瘍の原因になる 子供たちを守れ 子供の脳は電波に弱い
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         携帯電話の電波が孵化時の卵に与える影響
携帯電話業界が初めて不吉なニュースの波に揺さぶられたのは、一九九三年だった。CNNテレビの「ラリー・キング・ショウ」が、一回の放送を丸ごと使って、ある癌患者が携帯電話産業を相手どって起こした訴訟の話題を取り上げた。業界は、人々の不安と政府からの圧力をやわらげるため、公衆衛生学者のジョージ・カーロ博士に助けを求めた。まもなく、彼を責任者として予算二五〇〇万ドルの研究調査プログラムが立ち上げられた。その目的は、業界の言葉を借りれば、「携帯は安全である」と人々を安心させることにあった。プログラムの発足後、最初の数年間は、携帯に健康リスクがあるという証拠は見つからなかった。その間、業界とカー口との関係は、基本的におだやかだった。だが、その後、新しく開発された曝露システムを使った一連の研究が行われた。その結果、携帯の発する電磁波に、脳腫瘍や癌を引き起こしたり、人体に悪影響を及ぼす可能性があると判明した。業界はカー口を敵とみなすことで、これに抵抗した。彼を社会的に追放し、私的な信用を傷つける手段に出たのだ。

一方、二〇〇一年になった今もまだ、米政府には、携帯電磁波の癌との関連性や健康への悪影響についてのデータを国民に公開し、警告する動きがない。
この現実のもつ意味を正確に把握するには、携帯をまったく違った視点からとらえる必要がある。つまり、もし口頭でのコミュニケーションを容易にする携帯が、経口の錠剤かカプセルのようなものだったら、それが消費者の手に渡る前に、政府は間違いなく安全性テストの実施を要請しただろう。そして、もし、その結果が携帯について今わかっているようなものであれば、安全を確保するために、少なくともヘツドホンの使用を義務づけるなどの措置がとられるまで、市場に出すことが禁じられたに違いない。最低でも、端末に危険性を警告するラベルを貼るくらいの規定は定められただろう。これに関連し、スウェーデンのキェール・ハンソン・ミルド博士の研究結果は特筆に値する。それによると、携帯の使用者は頭痛や目眩を経験するということだが、実際、これらは米国食品医薬品局(FDA)の執拗な要請により、多くの医薬品のラベルに副作用として記載されている症状なのだ。

しかし、携帯がカプセルのように飲み下すものでなく、側頭部に押し付けて使用されるものだったため、正式販売前の市場テストはまったく行われなかった。同様に、市場に出た後のリコールもないだろう。今のところ政府のアクションは遅い。が、かと言って、業界側が進んで大々的なデザインの変更を行ったり、ユーザーにイヤホンマイクの使用を勧めるとは考えがたい。なぜなら、そうすることは業界が携帯に問題があることを認めているとみなされる恐れがあり、将来、集団代表訴訟が起きた時に不利な材料となりかねないからだ。


〈数千の研究?〉
携帯業界は新米の研究責任者カー口に、うっかり非常に困難な仕事を作り出してしまった。携帯についての恐ろしい情報がニュース番組に流れ、ウォール街で関連株がパニック的に売られた時、業界は大衆を安心させようと即製の手を打った。
一九九三年一月二六日、モトローラ社のあるトップ役員が「数千の研究がすでに携帯の安全性を証明している」と記者たちに話したのだ。それは業界全体を深く悔いさせる結果となる典型的な誇張だった。

まもなく方々のニュースに、この数千の研究という言葉が、まるでそれが事実であるかのように登場し始めた。時にはカーロ自身がこの数千の研究について語ったとさえ報じられ、気がつくと彼は、その巧みに人々を安心させる言葉の奔流に巻き込まれてしまっていた。当然、記者たちは業界に、この数千の研究を公開せよと迫り始める。カーロはスタッフに命じ、その作業にとりかかった。あるリサーチ会社に膨大なインターネット検索業務を依頼した。だが、この数千の研究は出てこなかった。数カ月後にもなお、CTIAのスタツフはむなしく探し続けていた。

一九九三年七月二二日、CTIAの産業渉外部役員、C・コリンズは、携帯研究のパイオニアの一人、ユタ大学のオム・ガンジー博士に緊急依頼の手紙を送った。「この問題に関するどんな研究でもかまいません。メディアに提出するコピーが必要なのです」手紙は続く。「ご存じのように、マスコミが携帯と癌の関連性について社会不安を呼ぶような報道を続ける主な理由の一つは、業界が『数千の研究』を提示できないでいるからなのです」
だが、もちろん、業界が数千の研究を提示できないでいる唯一の理由は、そんな研究が存在しなかったからなのだ。
業界全体が、初期の、この自らに跳ね返ってくる迂闊な発言を悔いた。なぜなら、その後数年問にわたる科学と政治の交戦期間に、業界が何かを言うたびに、ジャーナリストたちが疑いの耳で聞くようになったからだ。