まこちゃんは私の女神

Wallpaper drawn by d-land


〈エラト〉の章


 まことはドアを蹴って閉じ、テーブルに買い物の荷物を置い
た。そして台所に駆け込んでタオルを掴み、冷たい水に浸して、
顔や腕の汗を拭いた。気温は下がりだしていたが、まだまだ湿
度が高くてじめじめしていた。夏の街の鬱陶しい暑さが、小さ
なアパートの部屋に充満し、室内の酸素を奪っていた。

 急いでまことは荷物を片づけて居間に移った。雷雨が来そう
なのを、まことは感じた。そうしたら涼しくなるだろうが、と
ても待ちきれそうになかった。じとじとする空気が憎い。窒息
しそう。息が詰まる。
 窓の外を見ると、灰色の雲が彼方から広がって、鉛色の真っ
黒い壁のようにふくらんでいた。夕暮れがたちまち訪れ、部屋
の中も暗くなった。明かりをつけるのも面倒で、まことは窓に
近寄ってサッシをあけた。

 まことは窓の外に顔を突き出し、外の空気を吸った。オゾン
と排気ガス、下の階の中華料理店と土ぼこり。生活臭。だがそ
の中に、何とも表現できないような、何か気を引く涼しさと湿
り気を含んだ匂いを感じる。灰色の空を見上げると、もうすぐ
雷雨がやって来そうなのを感じた。
 まことは窓を開け放したまま台所に戻り、ガスレンジを見つ
めた。ゆっくりお茶を淹れて、少し待って飲む。まだちょっと
熱すぎ。また身体が汗で濡れてしまった。シャワーを浴びたか
ったが、もうだるくって何をする気も起きない。まことは部屋
の真ん中に突っ立って、外が暗くなっていく中で、全身から昼
間の緊張を垂れ流していった。

 涼しい風が窓から吹き込み、赤土の匂いを運んできた。まこ
とはその風を吸い込んで、幸せそうに息を吐いた。また風が吹
き込み、今度は激しい雷雨の予感を運んできた。涼しい空気が
肌を撫でていき、ちょっと鳥肌が立った。窓に振り返って、あ
っという間に空模様が暗くなっているのにまことは気がついた。
窓際のクッションに座って、まことは街を覆う雲が波のように
うねるのを見つめた。気温が落ち、冷たく湿った空気が触れて
きて、まことは鳥肌を立てた。遠雷の音が聞こえたような気が
した。嵐の中の戦車が、鉛の鎧をつけた王子を乗せ、稲妻の槍
をふるう。目を閉じてまことはその姿を想像した。

 突風が窓から吹き込み、まことはその風に身を任せた。Tシ
ャツ越しに自分の乳首が固くなったのを感じて、まことは片手
でそっと胸をさすった。目を閉じて、風が人の手のように胸を
上下に撫でて、乳首を愛撫しているような気になった。なんて
快感。ちょっと声を漏らしたまことは、心臓の鼓動が遠雷のよ
うに響くのを感じた。

 強い風が吹き、大粒の雨の音が聞こえてきた。通りに、窓に、
下の人々に降りかかる。風が強まり、近づく嵐を避けようと人
々が右往左往するのを、まことは見つめた。肌の汗はもう乾い
ていたが、冷たい風は人の指のようにまことの身体を愛撫し続
けた。

 窓から離れて部屋の隅に移り、まことはTシャツとブラを脱
ぎ、もう一度冷たい風に身体をさらした。まことは自分の身体
を触り、指で乳首を転がし、窓や屋根に打ちつけられる切れ切
れの雨音のリズムを全身で感じた。まことはゆっくりとそのリ
ズムに合わせて、腰を揺らした。
 最初の稲妻が光ると、まことは背筋から体の芯まで貫かれた
ように感じた。アパートを揺らす雷の音に、まことは息をつい
た。風のうなりと鋭さを感じるごとに、内股の間に熱いものが
沸き立つのを、まことは感じた。

 雨が激しくなり、まことはまた窓際に寄っていった。熱く燃
えた肌に、雨が当たる。まことは手を下のお口にまで伸ばして、
指二本を自分の中に差し込んだ。稲妻の電光が大気を貫くかの
ように。
 落雷と同時に、まことはさらに指を押し込んだ。全身に衝撃
が響き渡った。

「もっと…!」

 そう囁くと、また雷鳴が轟いた。さらに深く指を押し込んで、
クリトリスを手のひらでこすりながら、まことは喘いだ。雷鳴
がまことの身体を芯まで震わせる。再び絶頂に達しそうになる
まこと。最後の稲光が光った瞬間、その音と輝きのために、ま
ことは一瞬なんの音も聞こえず、何も見えなくなった。一秒も
ない時間差で雷鳴が轟き、それがまことの絶叫をかき消した。
そしてまことは激しい欲望の衝撃の中で身を震わせ続けた…。

***

 亜美はコンピュータのキーボードから起き直り、ゆったり身
体を伸ばし、両手を上に伸ばした。椅子に座り直して、亜美は
再び指をキーボードの上に置いた。だが、柔らかな素足の音が
聞こえると、亜美は手を止めてにっこり笑って振り向いた。

「もう、できたの?」

 まことの声は柔らかかったが、寝起きで少しかすれていた。
まことは亜美の首筋に手を当てて肩を揉みだした。亜美は目を
閉じて、肩のつぼに当たるまことの親指の感触を味わった。

「だいたいね」
 少し遅れて亜美が答える。

「もう夜中の一時だよ、わかってる?」
 まことは身体を寄せてきて、モニターの字を読む。

「自分の名前が書かれてて、自分がこんなエッチなことしてる
描写を読んだら、ドキドキしちゃう。特に、これを亜美ちゃん
がネット上にアップする瞬間といったら」

「アップする前には必ず名前を変えてるでしょ。私だけが、ま
こちゃんのことだって知ってるわけね」

 亜美は振り向いて、まことの輝く緑の瞳に微笑みかけた。亜
美は手を伸ばしてまことを抱き寄せる。

「まこちゃんは、私の女神。私だけの『芸術の女神ミューズ』
よ」

 亜美が優しくまことにキスすると、まことは驚くほど激しく
そのキスに応えた。まことのことをよく知らない者でも驚くほ
どに。亜美だけは、まことの情熱が達する高みと深みをよく知
っていた。

 二人のキスは深く、長く続いた。まことは離れると、亜美を
抱き寄せた。

「ベッドに行こ」
 まことが耳元で囁いた。

 せき立てられた亜美は、ストーリーをセーブすることも、ワ
ープロを終了させるひまもなかった。亜美はガウンをきゅっと
着直したが、その時ポケットに何か大きめのものが入っている
のに気づいた。
 手を突っ込んで取り出すと、それは革製の、フリースのライ
ンが入った手錠だった。亜美は笑ってそれを手にとった。

「今日は、どっちの番?」

 まことは振り返って笑いながら
「亜美ちゃんだよ、たしか」

 亜美はちょっと考えて
「お願いがあるの」

「ん?」

「あの革ジャン、着てくれる?」

 まことはニッコリ笑った。亜美はそっと近寄って、恋人にし
なだれかかると鼻にかかった声で耳もとに囁いた。

「ブラウスは着ないで、ね」

 まことはゴクッと息をのんで、うなずいた。そして浴室の扉
の所まで行った。

「先に行ってて…すぐ行くから」

 そして浴室に入って扉を後ろ手で閉じた。

 亜美はしばらくベッドに腰掛けて、今夜はどうしたら一番楽
しめるかを考えた。
 生まれたままの姿で?それとも何か着てたほうがいいかな?
何がいいかな?
 そうして亜美は、ずっとしまってあった、卒業した高校のセ
ーラー服を着た。真面目な優等生を演じたら、お堅いまこちゃ
んだってきっと興奮するわ。

 扉が開くと、亜美はベッドにきちんと腰掛けて、膝の上に本
を一冊置いた。まるで中学生の頃、本だけが真の友達だった頃
の亜美の姿。
 亜美は近づいてくるまことをわざと見上げず、身じろぎもし
ない。隣に座った「誰か」の息づかいが耳元に感じられるまで。
とても近くに。ずっとそばに…。

 亜美は、首筋の髪がかき上げられて、まことの唇が耳に触れ
るのを感じた。

「なにを、読んでいるんだい?」

 まことが妙に「堅い」口調で訊いたので、亜美はちょっと笑
いそうになったが、無理にこらえると、本を閉じてまことを見
つめた。

「ハリソンの、内科医療の原則と実践、よ」

 亜美は、まことがその本のタイトルに目を白黒させているの
を見て、少し笑ってしまった。
 まことは亜美の手をとり、本をひっくり返してカバーを見た。

「ハリソンの、内科、医療の、原則、と、実践…」

 目を泳がせているまことに、亜美はこらえきれずに笑い出し
た。今日の昼間に医学部で買った本で、まだまことには見せて
いなかった。
 眉をひそめて、まことはその本を亜美の手から取りあげて後
ろに押しやった。

「なんだか難しい本だね。ちょっと『息抜き』くらい必要だよ」

 低い、意味シンなまことの声が、亜美の肌をちくちく刺激す
る。

「ああん、だめ。私、本を読まなきゃ…」

 亜美は抵抗して、本に手を伸ばしたが、まことが小柄な少女
の身体にのしかかって押さえつけてしまった。亜美は顔を逸ら
したが、まことの手が亜美の顔をぐっと自分のほうに向けた。
亜美は皮の匂いに混じるまことの香りをかぎとって、キスした
い衝動に必死に耐えた。

 まことは亜美の隣に座った。まことの革ジャンは三分の一く
らいしかベルトやジッパーを閉めていなかった。亜美の目は、
革ジャンの襟元からのぞくまことの胸の谷間に釘付けになった。
それに気づいて、まことはくすくす笑った。

「お勉強が好きなのは、お医者さんになって、こことか、見た
いからかな」

 咳き込んだ亜美だったが、目はまことの胸に引きつけられた
ままだった。

「一息つくくらいなら…」

 そう言う亜美の声は、まことが身体を寄せてきてほとんど亜
美の唇に接するほどになって、とぎれた。

「よく言うでしょ、ドクター。『勉強しすぎで遊ばせないと、
亜美ちゃんだってバカになる』って」

「美奈子ちゃんみたいなこと言って…」

 亜美のことばがまた急にとぎれた。まことが唇を亜美の唇に
重ねてきたのだった。ちょっともがいた亜美だったが、すぐ降
参して、恋人の首に腕をまわし、情熱的にキスを返した。まこ
とは亜美のブラウスの下に手を滑らせて、服の下の素肌を撫で
まわした。亜美はまことの口の中にあえぎを漏らして、まこと
の背中を手で愛撫した。

 キスを終えて亜美は顔をまことの胸に埋め、革ジャンから覗
く胸の谷間にキスをした。そしてジッパーをゆっくり下ろして、
露出する素肌に歯を立てた。
 革ジャンの前がすっかりはだけると、まことは片方の胸を持
ち上げ、亜美に見せつけてせがんだ。だが、青い髪の少女は後
ずさりし、顔をそむけ、熱く燃え上がった頬と股間のうずきを
隠そうとして言った。

「あの、本当に、お勉強しなきゃ。こんなことしちゃ、だめ」

 弱々しい亜美の声は、まるで自分自身を「本当の」目的に納
得させようとしているかのようだった。それは亜美にとっては
たやすいことではあった。何年も勉強だけがレゾン・デートル
だった亜美は、こういう信念を実に自然に表現できた。亜美の
身体のほうは、まことを求めてうずいていたのだが。

 まことはうなるような声をあげて亜美の手を掴んでのしかか
り、亜美に抵抗される前にすばやく手錠をかけた。まことのた
くましい身体にのしかかられて、仰向けに伸びてしまった亜美
は、両腕を固定されてしまい、そして手錠が壁のフックに短い
鎖で繋がれてしまった。鎖を引っ張った亜美だが、抜け出すこ
とはできない。
 この拘束された体勢を少しでも楽しもうと、亜美はわざと鎖
を引っ張りながら、まことの下で身体をくねらせた。まことの
表情に狼のように残酷な微笑が浮かんで、まことは亜美の脚を
自分の脚に絡めて固定した。

 革ジャンをすっかり脱いで、まことは片方の乳房を持ち上げ、
亜美にくわえさせた。まことの柔らかな乳房に喘ぎながら、亜
美は餓えたようにしゃぶった。

「いいよ、上手。天才さんだって時々は息抜きしなきゃね」

 まことはハスキーな声でそう言うと、亜美がちょっと歯を立
てたのに反応して喘いだ。亜美は腕が伸ばされて肩が痛くなっ
てきた。亜美は、その感覚が気持ちよくて仕方がなかった。何
年も訓練して鍛えられた自分の身体は、その感覚を蓄積してい
く。エンドルフィンが全身にあふれ、さらに感じやすくなって
いく。
 まことの手が精力的に亜美の肌に触れていく。お腹から、胸
へと、ゆっくりとゆっくりと、両手で愛撫していく。まことの
指が亜美の乳首に触れると、亜美は快感に腕の鎖を引き絞った。
 だがまことは、その時にはもう手を引いて離れていた。亜美
はいきなり手を離されて我慢できずに唸った。

 まことは亜美に深くキスして、亜美のスカートの中に手を差
し入れた。亜美が服の下に何も身に着けていないのに気づいて、
まことは嬉しげな喘ぎ声をあげながら亜美の内股の内側を愛撫
した。亜美はまた手錠をぐいと引っ張り、背中を弓のようにの
けぞらせ、筋肉を硬直させて、もっとさわって、とまことにね
だった。

 ゆっくりと、まことは亜美の身体の下のほうへと移動してい
った。亜美の両脚を拡げて、まことがむさぼるように亜美のプ
ッシーを舐め、しゃぶると、亜美は両脚をふるわせた。亜美は
わけのわからないことを口走りながら、まことの名前を呼んだ。
 まことは微笑みながら舌で亜美自身をねぶった。時には早く、
時にはゆっくりと、また、触れているかどうかわからないほど
微妙に。
 大声をあげながら、亜美はまことに、奥まで入れて、と懇願
した。まことは亜美のクリトリスをくわえたまま、舌を差し込
んでいった。亜美は激しく絶頂に達し、恋人の名前を叫びなが
ら、さらに深く腰を押しつけていった。

 脱力して後ろに倒れた亜美は、ぼやけた目をぱちくりさせた。
まことは四つん這いにはって、亜美の小柄な身体の上に自分の
身体を重ねた。亜美の青い瞳を見つめて、まことは微笑んだ。
亜美も微笑みを返すと、快感と心地よい疲れの中で目を閉じた。

「亜美ちゃんて、あの先輩と全然似てないって、言ったっけ?」

 まことは笑った。二人の間ではもう言い古された冗談。

 怒ったような亜美の返事の声は、でも幸せそう。

「よかった。そんなまこちゃんを振っちゃうような馬鹿な人に
似てなくて」
 亜美は息をついて、
「でも、そのおかげで、まこちゃんは私のものになったのね」

 そう言うと亜美はまことに軽くキスした。亜美は鎖をチャラ
チャラさせた。

「ねえ、もう、まこちゃん、肩が痛いの。それに、今日は確か
まこちゃんの番だったんじゃなかった?」
 亜美は笑った。

「今度は亜美ちゃんが、この革ジャンを着てくれる?」

 まことは革ジャンを引っぱり上げて、亜美の身体の上にかけ
た。亜美は素肌に革の感触をじかにうけて身をよじらせた。ま
ことは亜美にのしかかって、壁のフックから手錠を外してやっ
た。そして亜美の肩を軽くもみほぐしてやってから、手錠を外
した。

「いいわよ、でもちゃんと理由を言ってね」
 亜美は体を起こして両手を振った。
「私、まこちゃんみたいなひどいことする『悪い子』にはなれ
ないもの」

 まことはその言葉に笑った。
「亜美ちゃんは十分悪い子だよ、あたしには」

 亜美は微笑みながら両腕をまことの首に回して
「それって、褒めことば?」

 二人は優しく口づけして、ゆっくりと崩れるようにベッドに
横たわった。




〈クリオ〉の章


 夜も更けて、まことは頭の後ろに手を組んで天井を見つめて
いた。市街地ではないので部屋はすっかり暗かったが、通りか
ら漏れる灯りのおかげで亜美の顔ははっきり見てとれた。亜美
の柔らかな寝息がまことの顔をくすぐったが、まことはじっと
動かず、恋人がこんなにも近くにいてくれることの幸せをかみ
しめていた。

 まことは、二人が初めて出会った日、うさぎがみんなに紹介
してくれたあの日のことを思い出した。

 やけに赤面した小柄な少女が目を引いた。まことはその時の
ことを思い出して思わず微笑んだ。

 「かわいい猫ね」とルナに声をかけたのは表向き、本当はず
っと、目は亜美ちゃんを追っていたっけ。でも、もしも亜美ち
ゃんがあのノートを落とさなかったら、こんな風にはなってな
かったろうな…。

 まことの想いは、あの日へと戻っていった…。

***

「また、明日ね!」

「じゃあね!」

 まことはうさぎに手を振ると、火川神社の階段を駆け下りて
亜美と美奈子の後を追った。いつものように美奈子はまるで転
がり落ちていくように階段をすごい勢いで走っていく。亜美は
ゆっくりと、手にした本に目を落として塾の予習をしながら歩
いていた。小首を傾げて歩いていく亜美を、まことは見つめた。
この天才少女がいつも考え事をしながら歩いているのを、まこ
とはもうよく知っていた。たぶん塾のテストに向けて公式を暗
記しているのだろう。

 まことはため息をついて、時計を見た。

「亜美ちゃん、もう四時だよ。今日は早く塾に行くんじゃなか
ったの?」

 はっとしてまことを見上げると、亜美は自分の時計を見て顔
を赤くした。

「ああ、遅刻だわ、ありがとう、まこちゃん!」

 あわてて階段を一段とばしで駆けていき、亜美はふもとのバ
ス停に急いでいった。

 まことはまたため息をついて、両手を頭の後ろに組んだ。特
に行くところもないし、あわててすることもない…。まことは
ちょっと落ち込んだ。でも、もう気にしないことにしよう。今
日はいい天気だし、スナックかなにか買って公園にでも行こう
かな…。

 階段を下りきると、まことは舗道に小さなノートが落ちてい
るのに気がついた。ページが開いて折れている。まことはかが
んでノートを拾い上げた。
 その筆跡は間違いなく亜美のものだった。バスに駆け込んだ
ときに落としたのだろう。

「明日、返してあげようっと」

 まことはそう言いながら、なにげなく開いたページのことば
を見た。英語か数学のノートかな、と思っていたまことは、ち
らりと見てみた。
 だが、書かれた文字を目で追いながら、まことは思わず立ち
止まった。ショックで口が開いたままになった。


〈抑えられない、私の心〉

  私の心をこんなに迷わせるのは、なに?

  お日さまに輝く褐色の髪
  瞳にきらめく燃えさかる炎
  触れる指、それとも
  あなたの熱い吐息?

  わからない
  わからなくって、怖くなる

  あなたがいないと、なにもできない
  助けて…震えが止まらない
  あなたを想うと、足が震える
  心臓がドキドキする
  私は、あなたの虜

  暖かく静かな夜に横たわり
  あてどもなく、さまよう
  道しるべは、あなたへの想いだけ

  燃え上がる、私の心

  自分が誰だかわからなくなる
  自分の心が抑えられない

  自分を見失ってしまう

  夢の中で踊るあなた
  美しい戦士の姿で

  そして
  私は一人ぼっちで自分をごまかしながら
  あなたのあとを追いかけるだけ


 まことは立ちつくしたまま、その文字をじっと見つめ、そし
てもう一度読む。確かにそれは、意味深げなポエムだった。
 亜美がポエムを書くのはもちろんみんなも知っていたが、で
も、これは…。
 息づかいを激しくして、まことは何度も、その詩を読み返し
た。褐色の髪?瞳に燃える炎?誰のことだろう…?

 正直なところ、まことは自分のしていることをいけないこと
だと思っていた。こんなはしたない、とんでもない無礼なこと
をして、あとでどうしたらいいのか心配になっていた。でもそ
の時はどうしても中味を知りたかった。
 ノートの最初から開いて、亜美のポエムを何行か読む。内表
紙の日付を見ると、亜美はこのノートを二人が初めて出会った
ひと月後あたりから書き始めていた。ということはもう一年半
以上も前からずっと書き続けていたということだった。


〈息ができないくらい〉

  力強いあなたは
  全てを洗い流す
  私を磨き上げる
  息もできないほどに

  何度も、何度も

  あなたが笑うと、エメラルドの瞳が光る
  雨に濡れた青葉がお日さまに輝くように


 まことは首筋から顔中を真っ赤に火照らせていた。亜美の心
の中をのぞき込んでいる、そのことを恐ろしく思いながらも、
しかし…。

「こんなところで立ち読みなんてしてたら…」

 自分のことばにハッと我に返って、まことはやましい気持ち
で辺りを見回した。亜美ちゃんは自分が読んでるのを知らない
から、今夜返しに行けば、気づかれないだろう。だが、今自分
の考えたことがひどい偽りであることに気がついて、まことは
愕然とした。自分を見れば、亜美ちゃんが気がつかないはずは
ない。疑うことを知らない亜美に顔を合わせる時を想像して、
まことは心の中で身をよじらせた。
 でも、知りたい。この中に何が書かれているのか、知りたく
てたまらない!

 まことはその小さなノートをしっかり持ってバスに乗った。
うつむいたまま、何も考えられなかった。まことはあやうくバ
ス停を降り間違えそうになった。

***

 まことは布団の上に座り込み、震える指で、ノートの中のポ
エムや物語や想いの断片を読み始めた。横になって読みふける
うちに、時間が過ぎ、外が暗くなったのも気づかなかった。
 やっと読み終えた頃には、もう亜美にこのノートを返しに行
くには遅すぎる時間になったのに気づいて、まことは真っ青に
なった。明日学校で返すしかない。

 まことはもう一度、ノートの最後のページに目を落とした。
一番最近の日付が書かれていたその詩に、まことは頬を真っ赤
に染めた。亜美の言葉はだんだん明確に、はっきりとなってい
った。だが、その内容はずっと変わっていなかった。

 息を詰まらせながら、まことは声に出して読んだ。


  あなたの唇が私の唇に重なり
  全身に震えが突き抜けていく
  私を甦らせる命のほとばしり

  二人は互いに混ざりあって
  一つの流れにつながっていく

  私はあなたのカンヴァス
  あなたは私の創造者
  あなたの手が私を描き
  あなたの想いが私を型どる

  私の顔、背中、腕
  あなたの手が全てに命を与える
  私の胸、腰、足
  あなたの魂に染め上げられていく

  あなたの手が残りの私に入ってくる
  そして、私は命を吹き込まれる
  あなたのちからに満たされて


 まことはそのページをじっと見つめていた。だが目に入って
いたのは文字でも文章でもなかった。見つめていたのは、その
タイトル…。

〈シュープリーム・サンダー〉…!

 一体どれだけの間、物思いに耽っていたのか、何を思ってい
たのか、まことは何も言えないままだった。

 玄関のベルが、まことをもの思いから引き戻した。時計に目
をやるともう十時近く、誰かが訪問して来るには遅すぎる時間
だった。

 ドアの覗き穴から外を見たまことはゾッとした。亜美が、明
らかに塾から帰宅する途中の様子で、外に立っていた。亜美は
胸に本を抱きかかえて、中の住人に誰だか良くわかるようにこ
ちらを向いている。
 まことはしばらく見つめて、あわてて部屋に戻った。もう逃
げられない。手にとったノートが、焼けるように感じた。

 まことは立ち上がってドアノブに手をかけたが、心の葛藤が
強烈に押し寄せて手を動かせない。
 居留守を使って、明日学校で亜美を避けてノートを亜美のロ
ッカーにこっそり返した方が良いかも、それとも嘘をついて…。
 いや。
 まことはイヤな気持ちになって首を振った。
 そんなのおかしいよ!亜美ちゃんに嘘をつくなんて、全てが
丸く収まるように嘘をつくなんて!母さんが言ってた、イヤな
ことにはまっすぐ立ち向かうのが正しいって!

 まことは心を決め、迷いを吹き消して、ドアノブに手をかけ
て開いた。

 亜美はいつもの内気な微笑をたたえてまことの挨拶に応え、
手招きに応じて中に入った。だがまことはすぐに何かあること
に気がついた。
 まことはお茶を出したが、亜美は遠慮した。礼儀正しい亜美
がそんなことをしたのは初めてだった。

 沈黙が続き、亜美はうつむいたまま考えをまとめているらし
かった。まことはよくわからない感情に混乱し、ふさわしい言
葉を見つけられないまま、いきなりしゃべり出した。

「あたし、亜美ちゃんのノート、持ってるんだ」

 まことは目を伏せて、ノートを亜美の前に差し出した。

 亜美は早口で
「ああ、よかった!どこで落としたかと思ってたの」

 その口調は嬉しそうではあったが、いかにもわざとらしかっ
た。

 まことは口を開き、何か言おうとしたが、突然のすすり泣き
に遮られた。驚いて見ると、亜美は玄関に駆け出そうとしてい
た。その目に涙をあふれさせて。
 まことは追いかけて亜美の手を掴もうとしたが、亜美はさら
に後ずさりした。まことが前に進み出ると、亜美はまた身を引
いた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」
 亜美は玄関に向かいながら何度も繰り返した。
「私、もう、だめなの」

「待って、亜美ちゃん!行かないで」
 まことは亜美の手首をようやく掴み、引き止めた。

 亜美は、まるで死刑執行人の斧の前で祈る死刑囚のように立
ちつくした。まことは亜美を掴む手をゆるめたが、決して離そ
うとはしなかった。

「謝らなきゃいけないのは、あたしだよ、亜美ちゃん。あたし
には、あれを読む権利なんかなかったのに。絶対に。あたしこ
そ非難されるべきなんだ」

 まことは情熱をこめて、わずかでも亜美の顔に微笑を取り戻
してほしくて語りかけた。だが、いくら語りかけても、亜美は
床に目を落としたままだった。

「あの時、中身を見ないで、そのまま亜美ちゃんを追いかけて
いくべきだったんだ。誰かがいけなかったっていうなら、それ
は、あたしなんだ」

 亜美は何も言わない。

「怒らないで、亜美ちゃん。あたし、その、あたしも人間だし、
あのポエムを見て、読んで、読み終わって、あたし、知りたか
ったんだ…。亜美ちゃん、誰のことを書いたんだろうって。亜
美ちゃんがこんなに好きな人って誰なんだろうって」

 まことは急に押し黙った。うつむいたままの亜美の目から、
一粒、涙がこぼれ落ちた。

「ごめんね、亜美ちゃん!」

 自分の言葉への亜美の反応に、まことは絶望して叫んだ。

「ちがう、ちがうの、まこちゃん」

 亜美の声は、呟くように優しかった。亜美は顔を上げて、ま
ことの悲しげな顔を見つめた。

「私こそ謝らなきゃならないの。もし読まれたくなかったら、
あんなところに落とすはずないもの」

 小柄な少女の姿を凝視し、まことはショックに口ごもった。

「亜美ちゃん、それって…、どういう…」

 亜美はうなずいて、涙を拭った。

「そんなことしちゃいけなかったんだわ。まこちゃんに怒られ
てもいいって思ってたけど、やっぱりいけないことだったの。
どっちにしても、私、怖い。なんて言ったらいいか、わからな
かったの。今でも、わからないの。ごめんなさい、まこちゃん、
こんなポエム書くべきじゃなかった。でも、最初にまこちゃん
と出会った時から、私…」

 亜美は口を閉ざした。まだ自分の手首を握っているまことの
手を見つめながら、首を振る。

「私、バカだわ。おまけに、変態さんよね、たぶん。ごめんな
さい、まこちゃん、おそらくもうこれ以上私の側にいたくない
よね。わかってるの。でも、せめてこれからもセーラー戦士と
して一緒に戦っていかせて。時間がかかるだろうけど、どうか、
許して…」

 亜美はまことの手をふりほどいて玄関に向かった。

 一歩踏み出した時、亜美は乱暴に引き留められて顔を再びま
ことの方に向けさせられた。大柄な少女の顔からは怒りが読み
とれた。
 突然、恐怖がお腹の底まで染み渡った。自分に対しても、他
の仲間に向かっても、こんなに怒ったまことの表情を、亜美は
見たことがなかった。

「まだ行っちゃだめだ!まだ!」

 まことの厳しい目に、亜美はすくみ上がった。

「あたしをこんな風にはめておいて、自分は逃げるつもり?」

 まことの声は怒りであふれていた。ふとまことは、亜美の怯
えように気づいて、冷静さを取り戻した。

「ごめん」
 まことは顔に手を当てて落ち着きを取り戻そうとした。
「あたしって、いつもこうして物事を悪い方にもっていっちゃ
う」

 亜美の肩から手を離して、まことは再び亜美を部屋に招いた。
「一緒に、ここに座ってくれる?」

 亜美はゆっくりと部屋に入って、おずおずとソファの端に座
った。
 まことは首を振った。

「こんな風にする気はなかったんだ、亜美ちゃん。ごめん。あ
たし、今みたいなやりとり、苦手でさ…。だからいつもケンカ
ごしになっちゃう。亜美ちゃんみたいに、自分を語るっていう
のが、うまくないんだ。このポエムもさ、その、きれいだよ。
うらやましいよ、本当に。それに、驚いたんだ。亜美ちゃんが、
あたしのこと、書きたかったなんて、知らなかったんだ…。あ、
こんなこと、あたしが言えたもんじゃないよね!」

 まことはがっくりしてため息をつき、膝に手をついて座り、
肩を落とした。

 亜美はソファ越しにまことを見つめ、驚きに目を丸くした。

「それって、まこちゃん、怒ってないの?」

「え、うん、いいや、怒ってる。怒ってるよ。でも、ポエムの
中身に怒ってるんじゃない」

 まことは亜美の目を見つめた。

「亜美ちゃんがそのことをもっと早く言ってくれなかったこと、
それとあたしがこのポエムを読んだ後に、亜美ちゃんがそれを
全部否定して逃げ出そうとしたことに、あたしは怒ってるの」

「ちがうの」

 亜美ははっきりした声で
「私、逃げだそうとした、それは本当、だけど、ノートに書い
たことは嘘じゃないわ。一語だって」

 亜美は瞳を輝かせて、挑発的なまことの言葉に異議を申し立
てようとした。

「あの、最後のポエムも?」

 まことは口元にかすかに笑みを浮かぶのを感じた。

「あのポエムは、特に…」

 挑発的なまことに、亜美は少し近づいていった。まこともそ
れに応じて亜美に近づいていく自分に気がついた。二人の間は、
だんだんと近づいていった。
 亜美の目は、まだ挑戦的だったが、だんだん柔和になってい
た。まことは亜美と視線を合わせているうちに、自分の中のこ
じれたものが、溶けて流れていくような気がした。知らないう
ちに作っていた心の中の壁が、砕けて埃のように吹き飛んでい
った。

 二人は黙り込んだ。この時間を味わい、永遠のように感じな
がら。
 亜美の瞳を見つめているうちに、まことは、自分が宇宙のよ
うに青く深い無限の空間へと、なすすべもなく落ちていくよう
な感じがした。そして、この時が終わって欲しくないと思った。
さっきの怒りが、期待に、そして経験したこともない興奮へと
形を変えていった。

 自分が今、人生を大きく変える分岐点に立っていることを、
まことは悟っていた。おそらくその人生は、これまでの十六年
の人生と同じくらい幸せではあるが、苦しさも待っているだろ
う。

 二人の唇が、ゆっくりと重なった。まことはためらいがちに
亜美を抱き寄せた。亜美は抱きしめられるままに身を寄せて、
まことの腕の中に溶けるようにもたれ、小さく息を漏らした。
二人の唇はさらに強く重なった。

 疑いなく、この瞬間のために自分は生まれてきたんだと、ま
ことは思った。セーラー戦士になるためでも、セーラージュピ
ターとして世界を守るためでもない、女の子として、この水野
亜美という少女の腕の中から愛を見いだすためだけに、自分は
生まれてきたんだと。

***

 まことは身をかがめて、眠る亜美の耳にキスをした。その小
さな身体を腕の中に抱きしめて、まことは顔を亜美の髪に埋め、
目を閉じ、二人のファーストキスの想い出に微笑みをうかべな
がら、眠りについた。



〈カリオペ〉の章


「これで終わり?」
 まことは笑っていたが、声は不服そうだった。

「そうよ、これで全部。何か期待してた?」

 亜美は座り直してお茶をすすった。声に出してストーリーを
読んだので喉がカラカラだったし、座りすぎて背中が痛くなっ
ていた。立ち上がって、亜美はまことに雑誌を手渡すと、スト
レッチ運動を始めた。

 まことはストーリーを見て、がっかりしたふりをして首をひ
ねった。
「ここでおしまいなんて、信じられない!」

「どうして?」
 亜美の声は脚をストレッチしていたので、こもっていた。

「だって、この二人が、あの、あたしたちのことだけどさ、キ
スした後どうなったか知りたいじゃない」

 亜美はまっすぐ立ち上がって、前屈みになってまことの鼻の
上にキスした。

「バカね、まこちゃんは何があったか全部知ってるでしょ。そ
こにいたんだから」

 まことは亜美の首に腕をまわして引き寄せ、長いキスをした。
離れると、まことは脚をソファに上げて座り直した。

「そりゃ、『あたし』はそこにいたよ。でも、読者はそうじゃ
ないでしょ。それに、とにかくこの内容じゃ不公平だよ」

「不公平って?」
 亜美はとまどったようにまことを見つめた。

 まことはそばに近寄った。

「その、あたしが一方的に亜美ちゃんを愛したみたいだけど、
でも…」
 言葉がとぎれた。

 亜美は笑い出した。
「それ、実はわざとなの」

「いじわる」

「もちろん」

「あたしのことも良く書いてよね…」

 まことの声は沈んでいたが、亜美はただ笑って、寝室に歩い
ていった。まことはあとを追いかけて、亜美を抱え上げてぐる
ぐる回し、きゃあきゃあ笑う少女をドサッとベッドに下ろした。

 亜美はまことの襟元をつかんでそばに引き寄せて、激しくキ
スをした。

「この変な服、脱ぐから」

 まことは離れようとしたが、亜美はまことをぎゅっと抱きし
めた。そして亜美は、ダブルのジャケットのボタンを外しはじ
めた。

「ところで、今日は何を作ったの?」

 亜美はまことの料理学校の制服についたしみを見て眉をひそ
めた。

「訊かないで。ただ、これだけは言える。あたし、フレンチは
嫌い」

 まことはジャケットを脱ぎ、補強した靴を脱ぎ、へんてこな
チェック柄のズボンを脱いだ。

「料理学校は制服で味付けするわけじゃないけどね…」

 まことの言葉が喘ぎでとぎれた。亜美がまことのブラを外し
て、手を滑らせて乳房をつかんだから。

 まことの背後から膝をついて、亜美が愛撫すると、長身の少
女は頭をもたげて、快感に背をのけぞらせた。亜美は手を下の
ほうに滑らせ、まことの下腹部の柔らかな肌を愛撫し、さらに
その下のショーツの下に手を差し入れた。
 亜美の手が自分の中に入り込み、優しく上下に動かし、濡れ
たところを押し広げ、その中心部を弄ぶのに、まことは喘ぎ声
をあげた。
 亜美は顔を引いて、まことのクリトリスを探り当てて愛撫し
だした。まことの息づかいはさらに激しくなり、亜美はそれに
刺激されて、時おりまことの乳首をもう片方の手でつまんだ。
亜美は前にかがんで、まことの耳を優しく舌でねぶった。

 まことの身体を支え、亜美はさらにもっと愛撫しながら耳元
で囁いた。

「イッちゃって、いいよ」

 まことはさらに激しく、大声で喘ぎだした。亜美の手をつか
んで自分の胸を揉ませ、歯を食いしばり、体の芯から絞り出す
ような喘ぎ声を何度もあげた。

 まことが絶頂に身体を震わせたのを亜美は感じた。愛撫をゆ
るめながら、亜美はまことがリラックスするまで首筋にキスし
て、自分の身体に動けなくなったまことの身体を預けさせた。

 二人は一緒に横になり、亜美はまことの髪を撫でながら、そ
の息づかいに耳を澄ませた。

「あのストーリー、さっきよりずっと気に入っちゃったな」
 まことは微笑んだ。

「よかった。あの原稿料でまこちゃんの半期分の学費が払える
し!」
 亜美は恋人に微笑みかけた。

「これで亜美ちゃんの医学部の授業料も心配ないね」

 まことは仰向けに身体をかえした。亜美は軽くまことのお腹
のラインに沿って愛撫する。

「奨学金がもらえなくても、お母さんが立て替えて出してくれ
ると思うけど」

「うん、でも自分たちでうまくやるほうがいいと思うよ」
 まことは亜美の手をとって優しくさすった。

「そうね。でもちょっと待って。この懸賞小説に入選できたん
だから、もしお医者さまになれなくても」
 亜美はずっこけるまことを無視して、
「私、作家としてやっていけるかも」

「あたしの夢はコックになるか、お花屋だからなあ。あたしも
お話が書けたらいいのに」

「まこちゃんだってできるわよ…だって、まこちゃんは私の女
神、だもの。まこちゃんが私にインスピレーションを与えてく
れるの。それに、まこちゃんの料理。もう何期か料理学校で勉
強したら、きっと立派なシェフになれるわ。そしたらレストラ
ンを開店して、夢を実現できるじゃない」

「うーん」

 まことは身体を伸ばしながらゆっくりと言った。

「じゃ、亜美ちゃんはもっと懸賞金の出る小説書いてよ…。資
金が要るから!」

 亜美がいきなり枕で叩くと、まことは悲鳴を上げた。二人と
もたちまちきゃあきゃあ叫びながら、同じようにふかふかの武
器を手にして戦火を切った。

***

 二人がやっと戦い疲れて、一緒に横になると、亜美はまこと
の胸に頭を乗せた。そして一緒にそれぞれの人生についての思
いに耽った。

 あのファーストキスの瞬間から、二人は決して振り返ること
はなかった。そして今、それぞれの夢に着実に近づいている。
 セーラー戦士であることも、月のプリンセスの友であり守護
者であることも、永遠に地球を守って戦う運命であることも、
二人の愛と夢に比べたらものの数ではなかった。



完


(訳者注)
 各章のタイトルは、全て芸術の女神ミューズと呼ばれる九人
の女神のうち、三柱の名前。エラトは恋愛詩、クリオは歴史、
カリオペは叙事詩を司ります。
 ちゃんと内容に対応してますね(笑)
*感想を百合茶話室にお書きください*

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